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    告白の行方

     12, 2016 07:00





    「・・・・・以上、法景 治(のりかげ おさむ)がお送りしました。明日、また、同じ時間、同じチャンネルでお会いしましょう。」

    カメラに向かって頭を下げる。


    「カーット!OK~!お疲れ様でした~~!!」


    ディレクターの声がスタジオに響いた。


    「お疲れ様~。」


    イヤホンを外しながら私はスタッフに声を掛けた。


    「お疲れ様でした~。」


    スタッフがそれに応え、口々に労いの声を上げた。



    そのまま控室へ直行して公式には吸ってるはずの無いタバコを一服していると、親友のプロデューサー、原黒源一郎が入ってきた。


    「ウイ~っス!!・・・・今日も良かったよ~、治ちゃん、最高~。あ、・・・タバコ見つからないでよ~。」


    「おう、お疲れ!・・・まあここには誰も入ってこないから大丈夫だよ。」


    「ま、これでも・・・。」


    と、原黒が缶コーヒーを差し出す。

    それを受け取りながら私はある提案をした。


    「なあ、毎年恒例のエイプリルフールネタ、良いのは無いか考えたんだけど・・。」


    「あ、うん・・・」


    「こう云うのはどうかな?・・・俺が番組の最後に突然自分の犯罪を告白し出すっての。」


    「えっ?ちょっと!治ちゃん何かしでかしたのか?」


    原黒はちょっと焦った様子で気色ばんだ。


    「いやいや、そんな事するかよ。そうじゃなくて、告白して、ちょっと溜めて、エイプリルフールでした、ってやるんだ。」


    「・・・う~ん・・・それ、面白いかも!最後に視聴者釘付けって感じで視聴率アップ間違い無し!!」


    視聴率が取れそうなら何でもありなコイツの言いそうな答えだ。


    「そうだろ。ハッハッハ・・しかし・・・どんなのにするかが問題だよな。」


    「・・う~ん・・・あ、でもそれなら・・・いや、流石に治ちゃんにそれは失礼かもな・・・。」


    「おい、何だよ。俺とお前の仲で失礼もクソも無いだろ。」


    「う~ん・・・そうかい?じゃあ・・・あのな、以前他のドキュメントでやったんだけど、自分の有給休暇期間にどんな犯罪が起こっているかって企画で色々調査したら、ほぼ全員の休暇中に殺人事件があるのが解ったんだ。ま、それぞれ場所が違うんだけど、日付と事件は一致するんだよ。」


    「ほ~、なるほど。そう言われればそうかもって感じだな。」


    「うん・・・それで、治ちゃんの過去10年の休暇中に起こった殺人事件は全部自分がやりましたー!っての、どう?」


    「オホッ!!10年分かよ!それは、随分盛るじゃね~か、ハハハ・・・・。」


    「ん?・・・ヤッパやり過ぎかな?」


    「いや・・・良いよ。それ、いこうや。」


    「そうかい?・・・解った、じゃあ・・・それ調べて明日迄に用意しとくわ。」


    「おう、頼むよ・・・クククッ・・・面白そうだね。」


    その日はそのアイデアを思い起こしながら久々に楽しい気分で眠りについた。



    4月1日 放送中


    「・・・以上、法景 治がお送りしました。・・・今日は最後に視聴者の皆様にお話があります。・・・・私、法景は過去10年間・・・休暇中に毎年殺人を犯しておりました。その時期、場所、被害者は次の通りです。・・・・」

    私は原黒が用意した原稿を淀みなく読んでいたが・・・・途中で不思議な感覚に襲われた。

    いくらなんでも、事件の時期と場所が私の休暇と旅先に合いすぎている。

    これでは本当に私が殺したと思われかねないでは無いか・・・・。

    最後まで読み終える前に顔を上げて原黒のいるブースを見上げた。

    ブースの中の原黒は陰湿な笑顔を私に向けていた。

    私は背筋に冷たいものを感じ予定より早くそれを切り上げようとした。

    その時、画面がスイッチされ、過去の私の笑顔の写真が画面いっぱいになった。

    音声は切られていた。

    そのまま時間切れで放送は終了してしまった。

    スタジオ内は騒然としていた。

    当然だ。

    メインキャスターが番組内で連続殺人を自供したのだから・・・。


    「は、原黒~~~!途中で切れたぞ!!どういう事なんだ~!!!」


    私はあらん限りの声を上げた。


    「ちょっと!!!それはこっちのセリフだよ!!法景さん、あんた人殺しなのかよ!!!」


    原黒は素知らぬ顔で怒鳴り返してきた。

    ・・・・私は原黒のさっきの笑顔の意味を理解した。アイツは私を嵌めたのだ。

    その証拠に番組終了と同時にスタジオ入り口から警官が入ってきた。

    同行を求めてきた警官の話では匿名の通報があったと云う事だった。


    取り調べで私は無実を主張したが、なんと、事件現場に私のタバコの吸殻、失くしたはずの財布等、私物が山程証拠として残っていたのだ。

    すぐさまDNA鑑定が行われ、言うまでも無くそれは一致した。

    私には全く身に覚えがないものばかりだったが、主張したアリバイまでも全く成立せず私は否認のママ10件の連続殺人犯として起訴された。






    「被告人は前へ。」


    裁判長の声が法定に響いた。


    「判決を言い渡します。まず、判決理由・・・。」


    私は戦慄した。理由から述べ始めると言う事は極刑であると言うことだ。


    「・・・・主文、被告人を死刑と処する。以上です。」


    私はその場で絶望し叫び続けた。


    「嘘だ~~~~~!!!わ、私はやってな~~~~~~~~~い!!!!」


    虚しく響き渡る声を傍聴席で原黒は笑いを堪えながら聞いていた。


    「・・・クククッ、これでおれは無罪放免だ・・・。」





    閑話休題




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    雨の日のサンシャイン

     11, 2016 07:00




    作詞 中里 綴

    作曲 沢田 聖子



    I love あなたが好き love

    私のこの気持ち うちあけたくて

    New love 思いっきりの love

    手紙につめた きっと渡すわ



    ふりむいてほしいの 私に気付いて

    毎朝バスの中 あなたを見つめてる

    窓のガラスで 髪型気にしながら

    あなたの瞳を いつも待っている



    I love あなたが好き love

    私のこの気持ち うちあけたくて

    New love 思いっきりの love

    手紙につめた きっと渡すわ



    いじわるね雨ふり バスが遅れる

    ひそかなこの勇気 どうぞ乱さないで

    苛立つ想いで 外を見れば

    傘をたたんで あなたが乗るところ



    I love あなたが好き love

    バスが揺れたはずみに 近づいた時

    New love 肩がふれて love

    あなたがそっと “おはよう”と云った



    I love あなたが好き love

    手紙はポケットに残ってるけど

    New love あなたの声 love

    突然雨が光って見えた





    <・・・・いや、この私がこんなハッピーエンドを許すはずがないのである>



    「おはよう」

    「あ、おはようございます・・・」

    私ではなく隣に立つ 臼井 幸 が応えた。

    「ねえ、ずっと前から気になってたんだけど・・・君、今付き合ってる人いる?」

    「えっ?・・・いいえ・・・いません・・・・」

    「・・・・じゃあ、俺と付き合って」

    「え、・・・あ、はい・・・」

    「あ、ごめん、君、友達?」

    私は答えた・・・

    「あ、いえ、部活の先輩で、宇曽月 奈乃代と言います。」

    「あ、先輩・・・すいませんね、朝から・・」

    「いえ・・・大丈夫です。」



    私はポケットの手紙を握りしめて心に誓った。

    いつか、必ず、臼井 幸を・・・・殺してやる!




    閑話休題

    *沢田聖子さん、ごめんさ~い(;^ω^)でも大好きでしたので許して・・・(汗)*





    ある日の出来事

     10, 2016 07:00



    窓の外は春の訪れを感じさせる。

    寝床で思い切り背伸びをしながら、微睡みから覚醒する。

    臼井 幸の日常はこうして始まる。

    いつも通りの朝食を摂り、ながらテレビのスイッチを切り着替える。

    ドアを開けると暖かな日差しが今日の元気をくれる。

    混雑時を避ける為に通勤は他人より早めだ。

    勤務先の銀行へは就業時刻よりかなり早めに到着するので職場はいつも1番乗り。

    いつもの朝、いつもの仕事、そうやって過ごしたある日、その日もいつもの終業時間。


    「・・・間違いありません・・・・。課長、どうしますか?」


    近くの席の先輩が課長に何事か相談している様だ。


    「・・・・困った事態だ・・・。何て事を・・・。」


    課長の思わぬ厳しい視線に幸は驚きの表情を浮かべた。


    「・・・臼井君、ちょっと会議室に来なさい。」


    甲高い課長の声にフロアに居た行員たちの視線が集中する。


    課長を先頭に先程の先輩と幸、3人が会議室へと入る。

    入るなり課長が幸を問い詰め始める。


    「臼井君、何て事をしてくれたんだ!横領なんて最悪だよ、君!」


    幸は課長の叱責に驚きを隠せない。


    「そ、そんな・・・・横領なんてしてません。そんな事、私、身に覚えがありません。」


    「・・・・無駄だよ。宇曽月君が君がやった証拠を見つけたんだ。」


    「・・・・幸ちゃん・・・可哀相だけど、やっぱり横領なんてやっちゃだめよ・・・・。」


    「せ、先輩・・・私じゃありません。本当です。信じて下さい。私・・・そんな事、しません・・・。」


    幸の必死の訴えも虚しく、宇曽月が見つけた証拠は動かぬ証拠。

    そのまま処分が決まるまで課長から自宅待機を命じられる。


    失意の元呆然としながら駅への道を歩いていると、人相の悪い大男に正面からぶつかられた。


    「こりゃ!おんどりゃ、ちゃんと前向いて歩けや!!」

    驚いて竦み上がった幸は正当な反論も出来ず。


    「・・・す、すいません。」


    「ふん!今度から気を付けろや!」


    意外とあっさり許してくれたのが不思議であったが、その場を急いで離れる事が精一杯な幸。

    しかし駅前に着いたときにバッグの口が開いている事に気が付く。

    支払い用に口座から下したばかりの現金(銀行の封書入り)50万円が無い。

    弱り目に祟り目。

    幸はもうどうにかなりそうである。

    そのまま近くの居酒屋へ直行。

    嫌な事ばかりのこの日を飲み干す勢いで、自分の限界以上の酒を浴びるように飲む。

    そのうち隣の席に居たサラリーマン風の二人連れが絡んで来た。


    「ねぇ~、一人で飲んでるの?一緒に飲まない?」


    「いえ・・・結構です。構わないで下さい。」


    「・・・チェッ、いけ好かない姉ちゃんだな!ブス!」


    最悪の日の最悪の気分が幸に勇気を与えた。


    「何よ!醜男(ぶおとこ)のくせに!余計なお世話よ!」


    しかし、今日は最悪の日なのだ。


    「な、何を~!このブス!!死ねや~!!」


    2人連れの1人が幸を床に引き倒し、頭を殴りつけ首を締めた。

    幸は苦しさの余り近くに転がっていたビール瓶を掴み相手の頭に叩き付けた。


    「ぐわぁ~~・・・」


    男は出血しながら床を転がり回る。


    「きゃ~!!!」


    店内に女性客の悲鳴が響き渡った。


    余りの出来事に幸は我を忘れ一目散に店を飛び出した。

    通りに出てすぐさまタクシーに飛び乗り自宅へと逃げ帰った。



    「ただいま・・・・」


    一人暮らしなので勿論返事は無い。

    部屋に入った幸は余りの有様に呆然とした。

    部屋中ひっくり返した様な散らかり具合である。

    空き巣に入られた?・・・・

    もう何も考えれらない幸が立ち竦んでいるとチャイムが鳴った。


    「はい・・・どちらさまですか?・・・・」


    「夜分すいません、宅急便です。」


    「あ、はい・・・」


    ドアを開けると配達員の制服を着た男にいきなりナイフを突き付けられ口を塞がれる。


    「・・・おとなしくしろ。声を出すなよ!」


    怯えきって声など出ない、ただ黙って頷いた。

    そのままの態勢で部屋の中に入ってソファーに押し倒され・・・・

    事が終わるまで幸の首にはナイフが突きつけられたままで抵抗さえ出来ず、男が部屋を出て行った後も恐怖で泣くことさえ出来ずにただ呆然と倒れたまま。

    数時間そのままの態勢でいた幸を揺り動かしたのは宇曽月。


    「幸さん・・・どうしたの?何があったの?」


    その言葉に幸が堰を切ったように泣き声を上げた。


    「先輩・・・先輩・・・」


    幸は自分を陥れたのが宇曽月である事をすっかり忘れて縋り付いて泣いた。


    「幸さん・・・可哀相に・・・・でも・・・いっそ死んでね・・・。」


    「えっ?・・・」


    驚いて宇曽月の顔を見上げた幸の首にロープが巻かれそのまま絞められる。


    「うっ・・・くる・・・せ、先輩・・・どうして・・・・」


    「ごめんね・・・お金、私なの・・・だから・・・ごめんね・・・」






    毎朝新聞 社会面

    ○○銀行から横領で告発されていた「臼井 幸」容疑者が自殺、遺体で発見された。

    臼井容疑者は勤務先の○○銀行で横領が発覚し、自宅謹慎を命じられた後勤務先近くの居酒屋で泥酔し隣席の会社員へ暴行、軽傷を負わせた後逃走。

    帰宅後も自宅で暴れて近隣住民から騒音被害で警察へ通報され、警官が容疑者宅へ駆け付けた時には既に浴槽のドアで首を吊って自殺を図っていた。

    救急搬送先の病院で死亡が確認され、警察は横領、暴行傷害の容疑で被疑者死亡のまま書類送検した。



    これが臼井 幸の身に起きた、ある日の出来事のすべてである。



    閑話休題




    「いや・・・先生、貴方はご存じの筈だ。隠さず全て話して下さい。」


    「・・・お話しすることは何もありません。もう、帰ってください。」


    「・・・残念ながらそうはいきません。なんせ今回は人類絶滅の危機ですから。市役所の依頼と言いましたが、勿論政府も関係しています。」


    「そ、そんな事、私には関係ありません。」


    「いや、そうはいきません。僕の電話1本で政府は多分貴方に拷問でもなんでもするでしょう。だって人類絶滅したら世論だの何だの関係なくなりますからね。」


    「そ、そんな・・・・」


    「まあ・・・落ち着いて。座って下さい。別に僕は貴方が何をしていようがそれを咎め立てたりするつもりは無いんです。」


    少々興奮気味だった田宮先生が僕の言葉の意味をどう取ればいいのか訝し気にしながらも腰を下した。


    「それで・・・今回の事件の発端を教えて頂けますか?」


    「そ、それは・・・」

    まあ、そう簡単には決心は着かないだろうな。

    ではもうひと押し。


    「先生・・・あなたの誕生日は6月6日午後6時ですよね?」


    「えっ?・・・何故時間まで?」


    おや?田宮 杏 ➡ ダミアン ➡ 映画「オーメン」 ➡ 666 から適当に言ってみたら当たったらしいぞ。


    「まあ・・・陰陽師なので、それくらいは。」


    「はあ・・・・。」


    よし、一気に攻めちゃおう。


    「多分、どなたかを殺しましたね。それが関係してるんだと思いますが、どうですか?」


    「そ、それは・・・あの・・・でも・・・・。」


    また、当たり。


    「さっきも言った様に僕は貴方の個人的な犯罪には全く興味はありません。なので、それで警察沙汰になるとかは全く無いので、真実を話して下さい。先生だって人類が滅亡して欲しいわけじゃないでしょう?」


    「そ、それは、そうです。そんな、大変なことしたい訳では・・・。」


    「では・・・話して下さい。多分僕なら善処できますよ。」


    「・・・・・はい。・・・・・・・」


    さすがに田宮先生も観念したようで、それからは素直に質問に全て答えてくれた。



    今日子が言った様に普通の人から見るとこの人は魔物だった。

    都合8人を(自分で、あるいはそう仕向けて)殺害していた。

    ただし、今回の事件については不可抗力といったところか。

    話を聞くうち「禰 莉愛」教授の話になったくだりで、学内に入った時・この研究室に入った時に感じた違和感の正体が解った。

    学内、この研究室に漂っている妖気は「禰 莉愛」の怨念だったのだ。

    なので、実害は無いのに強すぎる妖気・・・これが違和感の正体だった。


    「分かりました。先生、その禰教授の研究内容の資料とかありますか?」


    「あ、はい・・・」


    机の引き出しから1つのUSBを取り出し、僕に差し出した。


    「じゃあ・・・後は・・・ここの妖気を取り払います。それで田宮先生も少しは心安らかになられると思いますよ。・・・・・今日子、春雨を。」


    「あ、はい。」


    春雨を今日子に持たせておいて、印を結ぶ。


    「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!!!」


    すぐさま「春雨」を抜き、空を斬る。


    ピカッ!!!

    室内に強い光が充満してさっきまで溢れかえっていた妖気が消失した。



    「・・・・これで、終わりです。じゃ、田宮先生、美於士君が戻ったらよろしく言っておいて下さい。」


    「はい・・・・あの・・・ホントに・・・私は・・・」


    「・・・さっきも言った様に人間界での出来事には僕らは干渉しません。・・・だけど・・これからは違う生き方をしていかれた方がよろしいかと・・・。それと・・・ヒソヒソ・・・」


    「あ、はい・・・。」



    研究室を出るとすぐ今日子が否やを唱えた。


    「おにま・・・ホントに黙ってるの?あのままで良いの?・・・あの人、人殺しよ。魔物なのよ。」


    「・・・まあ・・・いいさ。ホントの魔物(禰 莉愛)を彼女が殺してくれたから人類は絶滅を逃れた様なもんだから。」


    「それはそうだけど。でも・・・」


    「良いんだ・・・。毒気は抜けてるし・・・自分で自分の1番愛した人を殺したんだ。もう何をする気力も残ってないさ。僕らは警察や裁判所じゃ無いから・・・一々犯罪まで取り締まっていたらたまったもんじゃない。」


    「うん・・・まあ・・・・。」


    今日子は何となく納得出来ない様な顔をしていたが・・・。

    実は帰り際、杏ちゃん♪とこっそりデートの約束をした事を今日子は気付いていない。




    帰りがけに近くの神社で、陰陽の秘術である妖魔吸集の術を使い、近隣に蔓延るヨワヨワ妖魔どもを集めて、まとめて朱雀のエサにして今回の依頼は無事解決。

    強敵と戦わずして終わったのは(杏ちゃん♪と➡)愛でたし、愛でたし、あ、めでたし、めでたし。

    道すがら、検問所に立ち寄り市の助役さんと政府の危機管理対策室長に「禰教授の細菌」の資料を渡して、その細菌感染者には杏ちゃん♪が言っていた「○○型」の抗生物質が特効薬になるからすぐさま国民全員に渡すように助言しておいた。


    「いや~!!今回は本当に小泉先生にお助けいただいて・・・。大袈裟ではなく、人類を代表してお礼申し上げます。」


    「いや、過分な依頼金を4億も頂いてしまったもので、その分だけは働きませんと・・・」


    「あ、その後の3億はまだ入金されてませんでしたか?もしそうなら、直ちに。」


    キッ!!!っと今日子を睨んで・・・


    「あ、いえ・・・こちらの確認が未確認なだけだと。帰ったら見てみます。今回はご依頼ありがとうございました。」


    「とんでもありません。こちらこそありがとうございました。」


    深々と頭を下げる2人の依頼者に見送られながら帰路へとついた。




    「・・・・スズメ・・・てめ~、ホントに殺すぞ!・・・あと3億・・・どうした。」


    「・・・ご、ごめんなさい・・・あの・・・埼玉って事(浦和レッズ=レッドダイアモンズ)で・・・宝石屋さんに飾ってあった3億円のレッドダイアモンドが欲しくなって・・・ごめんなさ~い!!!」




    家に帰り着いたらすぐに朱雀(今日子)をタコツボに閉じ込めたのは言うまでもない。





    おしまい。





    病院の玄関を入り受付へと歩みを進める。

    今日子はかなりビビっているようで僕の後ろに隠れてくっ付いてくる。


    「・・・すいません、田宮先生にお会いしたいんですが。」


    ちょっと見、かなり美人の受付嬢に100%の笑顔で尋ねた。

    後ろで今日子が睨んでいたのはいつもの事だ。


    「田宮先生ですか?お約束でしょうか?」


    「あ、いえ。従兄弟の事でちょっとお伺いしたい事がありまして。」


    「失礼ですが、どういったご関係でしょうか?」


    「・・・う~ん・・・従兄弟とはこちらに在籍している安倍美於士で・・・現在は休職中という事ですが・・・田宮先生とも”また従姉弟”の関係にあたります。」


    「あ、安倍先生の・・・少々お待ち下さい。」


    受付嬢が好奇の光で溢れた目でこちらを見ながら田宮先生への取次ぎを行う。


    「お待たせしました。こちらを真っ直ぐ行った研究棟の5Fにある乳酸菌研究室にお越しくださいとの事です。」


    受付嬢の好奇心を満たしてあげたいところだが、今日子が背中を抓るので仕方なく早々と目的地へ向かう事にした。




    目的の研究室の前に来ると、そこはまるで地獄への入り口と云った感じの究極の妖気で包まれていた。


    「おにま・・・マジ怖い。」


    さすがの朱雀も足が竦んでいるようだ。


    「ああ・・・こりゃ~大変そうだ。・・・春雨すぐ出せるように用意しておいてくれ。」


    「あ、うん。」


    後ろに抱えた釣り竿ケースを開けて胸に抱えながら僕の後ろへピッタリくっ付く。

    コンコンコン。


    「はい、どうぞ。」


    妖気とは裏腹な明るい声が返ってきた。

    ちょっとだけ深呼吸しながらドアを開ける。


    「こんにちは。初めまして、田宮です。こちらへどうぞ。」


    おや?可愛いぞ。

    つい、にやけてしまうと後ろから今日子の背中抓り攻撃が来た。


    「痛っ・・・こら、雀!・・・あ、すいません、こちらの事です。失礼します。」


    田宮先生から示された応接ソファーへと腰を下した。


    「・・・コーヒーで良いですか?」


    「あ・・・おかまいなく・・・。」


    「いえいえ・・・美於士の従兄弟って事は私の”はとこ”になるんですよね?・・おもてなしはしないと、フフフ・・・。」


    「そうですね・・・こんな美しいはとこが居たなんて・・・初めて知りました。」


    「アハハ・・・お口が上手いのね。」


    そのやり取りの間中今日子の抓り攻撃は続いていた。

    コーヒーが入ったカップをテーブルに置きながら田宮先生は正面に座った。

    「あ、ありがとうございます。頂きます・・・・。」


    コーヒーを飲みながら室内をそっと観察する。

    相変わらず究極の妖気に包まれている事には変わりは無かったが、大学に入った時に感じた違和感をそのときもまた感じた。

    何だろう、この違和感は・・・・・。



    「それで・・・今日は美於士の事だと伺いましたが・・・美於士の何を知りたいのですか?」


    「はあ・・・いや・・・実は、美於士君の事は、この大学に来て知ったんです。本当は・・・今回の事件について川口市から調査を依頼されていまして・・・。」


    「・・・・どういう事ですか?」


    「・・・う~ん。え~っと、実は僕はその・・・陰陽道にかかわりのある者で・・・。」


    「陰陽道?はあ・・・」


    ちょっと怪訝な表情が浮かんだ。


    「あ、・・・まあ、胡散臭いですよね、ハハハ・・・。」


    「あ、いえいえ・・・。美於士の本家がそう云った関係だとは聞いていましたから。」


    「そうですか。実は、まあ、その関係で色々やってまして・・・。」


    「はあ・・・で、それと何か関係が?」


    「ええ・・・多分・・・・。」


    その時、恐怖をそれまで必死に堪えてきた今日子がブチ切れた。


    「おにま・・・もういいじゃない。・・・コイツ、魔物よ~!!!」


    「・・・なに?急にどうしたの?・・・魔物って?」


    田宮先生は明らかに戸惑った表情で、しかし、取り乱す事もなく、逆にこちらを問いただす。

    ヒソヒソヒソ・・・・
    (シッ!黙ってろ雀!)(あ、また雀って。)(いいからお前は黙ってろ、話がややこしくなるだろ。)(だって・・・)(いいから、俺に任せとけってば!)(・・・わかった・・・)


    「あ、失礼しました。魔物はちょっと言い過ぎですよね。」


    「・・・はとこだからって・・・さすがにちょっと失礼じゃありませんか?初めて会ったのにそんな言い方。私が何をしたと仰るんですか?」


    「う~ん・・・いや、実はまだ良く解らないんです。ただ・・・田宮先生が今回の事件について何か知っていらっしゃる事だけは・・・確かですよね?」


    「知りません。・・・私は関係ありません。」


    きっぱりとした避妊、あ、いや、否認の言葉と裏腹にその目に動揺が走ったのを僕は見逃さない。

    こう見えても僕はその世界では結構有名なのだよ、明智君。


    閑話休題



    地区の中心部である珍々堂医科大学に近づくと、鳩ケ谷全体を覆いつくす妖気の中心部である事がハッキリしてきた。

    大学の正門前で暫し観察する。


    「おにま・・・なんか、怖い。経験した事ないくらい妖気が大きいよ・・・・。」


    不安そうに今日子が呟いた。


    「・・・・う~ん・・・そうだな・・・・」


    確かに、今まで相手にしてきた妖魔たちが出していた妖気と比べると桁違いにその全体像は大きかった。

    しかし・・・僕はある違和感を感じてもいた。

    その違和感の正体は解らずにいたのだが・・・・。


    「ま・・・ここで立ち竦んでいても埒が明かないから、取り敢えず入ってみるか。」


    「う・・・・・ん・・・・」


    恐る恐る2人で学内へ。




    大学中心部にある交流スペースの一角にあるサークル用テラスで超常現象研究会のメンバーが今回の事件について検討会を開いていた。

    その個性的なメンバーは、最上級生の「珍宝 太」3年「保々下 伊代」・「御目溢院 多聞」2年「尾奈兄 舞伴」1年で留学生の「ジョージ・マグワイアー」の5人だ。

    それぞれの見解を述べ合い事態の究明を真剣に議論していた。


    「・・・・ところで、今週のセンテンススプリングに、”安倍御主人の予言の文”ってのが載ってたけど・・・みんなどう思う?」


    議長役の太がみんなの意見を聞いた。


    「あ、あれ・・・結構真実味あるよね~。とにかく全部当ってるし。多聞はどう思った?」


    まとめ役のお姉さんキャラの伊代がいつもの熱い視線を多聞に送る。


    「あ、・・・うん・・・そうだね。」


    「あは・・・多聞さん・・・もう諦めて伊代さんと付き合っちゃいなよ。」


    伊代の多聞へのアタックを実はうらやましく思っている舞伴が茶々を入れる。


    「オー!マイガー!伊代さん、多聞さんの事ラブなのですか~?」


    そこにジョージも加わり話が脱線し始めた。


    そこへカップルらしき2人が声を掛けてきた。


    「すいません・・・ちょっとお話をお聞きしたいんですけど・・・。」


    リーダーの太がそれに対応した。


    「はあ・・・何でしょうか?」


    「あ、はい、実は今回の事件について市役所から調査を依頼された者で、小泉と言います。こっちは妹の今日子です。」


    「あ、・・・探偵さんですか?・・・あ。綺麗な妹さん、どもです。」


    太のお世辞に今日子がはにかんだ。


    「・・・それで、今ちょっと聞こえちゃったんですが・・・安倍御主人の予言の文・・・週刊誌に載ったんですか?」


    「あ、はい。今週号に載ってました。それが何か?」


    「あ、はい・・安倍御主人は・・・まあ・・ご先祖様に当るもので・・・・。」


    「え~!!」


    一同が驚きの声を上げた。

    純一郎はてっきり安倍御主人の子孫だという事に驚いたのだと思ったがそうでは無かった。


    「へ~!じゃあ、安倍美於士(あべ みゅーじ)先輩の親類に当るんですね。」


    今度は純一郎が驚く番だった。


    「えっ?・・・美於士くん、この大学だったんだ!」


    「あ、やっぱり、親類なんですね?」


    「はあ・・・従兄弟です。」


    「へ~・・・世間って狭いですね。」


    美於士がこのサークルの先輩に当りその親戚と言う事で一気に打ち解けた。


    「・・・今美於士はどこにいますか?久々に会って・・・ついでに話も聞きたい。」


    「あ・・・・それが・・・・。」


    一同の顔がいきなり曇った。


    「あれ?どうかしました?」


    「はあ・・・それが・・・・。」


    顔を見合わせたメンバーたちが、話し難い事をそれぞれが分担してという感じで皆でちょっとづつ重い口を開いて事情を説明した。

    昨年夏前、美於士の恋人が従姉妹の婚約者とW二股関係になり、しかもそこにお金が絡んでグチャグチャな4角関係に陥った末・・・なんとその2人が揃って腹情死するという結末を迎えた。

    その後美於士は休職して行方が分からなくなった・・・・と。


    「う~ん・・・・全然知らなかったなぁ~。そんなことがあったなんて・・・。」


    「・・・僕らサークルの皆も結構心配してるんです。凄く優しい良い先輩だったんで。」


    「そうなんだ・・・・。あ、ところで、その従姉妹は今どうしてます?」


    「あ、田宮先生なら大学病院にお勤めされてますよ。」


    「田宮先生って言うんですね。・・・分かりました。色々どうもありがとうございました。」


    2人とも軽く会釈して・・・・大学病院へと向かう様だ。


    「・・・市役所が探偵使って何調べているんだろうね?」


    伊代の言葉に皆顔を見合わせ考え込んだ。





    「おにま・・・ここ、かなりヤバくない?」


    今日子が心持ち緊張の度合いを高めながら僕の顔を見る。


    「そうだな・・・・まあ・・・今回は早くもボスキャラ登場って感じだな・・・。」


    覚悟を決めて僕らは病院の中に入った。



    閑話休題






    そもそも4億円もの依頼金が出る案件とはどんな事件なのか?

    雀(今日子)の説明によると、依頼人は埼玉県川口市の助役で、緊急の案件(危険手当込み)である為,解決金では無く前金で全額支払う、それほど切迫した依頼だった。

    にも関わらずバカ雀は自分が車が欲しかったからと1週間もその事を内緒にしやがった。

    切迫した状況がこの1週間でどれくら悪化してるのか想像するのも恐ろしい。



    次の日、買った車で行きたがるバカ雀を叱り飛ばし、ついて来るのを嫌がったカラス(天狗➡見た目は文鳥)を引き連れ、勿論伝家の宝刀「春雨」も携えて現地へ向かった。

    鳩ヶ谷地区の入り口に位置する「S町」へ差し掛かかり今日子と軽口を叩き合っていると中心部方向から来た1台の車が僕らの目の前で停車した。


    「君たち・・・・この先には行ってはいけない。・・・・ゾンビが居るのだ。この車に乗りなさい、送ってあげるから」


    「え~~~!!ゾンビ~~???キャハハ、このおじさんおもしろ~い。おにま!ゾンビだってよ~~~。うっかり車乗ったらこのおじさんから食べられちゃったりして~」


    「あ、いや、そんな事はしない。・・・・確かにそんな話は信じられないとは思うが・・・だが本当なんだ。この道は進んではいけない。」


    彼は他に危機を伝える手段を思いつけず、訴えかける様な目をして声高に訴えた。


    「あら?・・・・おにま!なんか本当みたいだよ?どうする?」


    「ああ・・・・おじさん、ご忠告ありがとうございます。まあでも・・・大丈夫ですから・・・僕らの事はお気になさらずに逃げちゃって下さい。・・・ただ・・・・」


    「えっ?・・・大丈夫とは・・・・ただ、なんだい?」


    「あ、いえ・・・どうぞ、行っちゃって下さい」


    「・・・・・良いのか?乗っていかないのか?」


    「うん、おじさん、大丈夫だから、お気をつけて~。じゃあ~ねぇ~」


    怪訝そうな顔をしながら彼は車を発進させた。

    しかし、その先には政府がつい先程、事象原発地域の隔離を決定したため、その為の検問所が設置されていた。


    「う~ん・・・やっぱり、あのおじさんに検問所の事、教えて上げた方が良かったかなぁ~。」


    「・・・別にいいんじゃない。あのおじさん自身も危ないかもだし・・・おにまには関係ないじゃん。」


    「ま・・・そうだな。」


    おじさんの事は横に置いとくとしても、おじさんが言っていた「ゾンビ」の事はそうはいかない。


    「しかし・・・ゾンビかぁ~・・・・。厄介な事になりそうだな~。」


    それまで黙って肩に乗っていたカラス(天狗➡見た目は文鳥w)が、その一言でさっと飛び立ち・・・逃げた。


    「あっ・・・あいつ、また逃げやがった!!」


    「あ~~~!ずる~い!!・・・良いの?おにま。」


    「・・・ふん、帰ったら折檻してやる!・・・ただし・・・雀、お前も4億円分、折檻だぞ。」


    「え~~~~!!!やだ~。もう許してくれてもいいじゃない~。」


    「バカ言え!!4億だぞ、4億。一生分の金だぞ。・・・車なんぞに勝手に遣いやがって。」


    僕は根に持つタイプなのだ。

    そうこうするうちおじさんが言っていたレストラン(ドライブイン?)の前についた。


    「・・・おにま・・・なんか・・・妖気が・・・・。」


    「ああ・・・いかにもって感じだな。・・・ま、入ってみよう。」


    「・・・・・大丈夫なの?・・・・」


    「なんだ?怖いのか?・・・ハハハ・・・朱雀の癖に・・・最近まともに仕事してないから鈍ったのか?」


    「・・・失礼ね・・・鈍ってなんかないわよ。・・・フンだ。」


    ちょっとプンプンしながらスズメが入り口のドアを開けると早速ゾンビのお迎えだ。


    「い・しゃ・っら・い。・・・あ~ぐ~」(いらっしゃい。)


    死臭を漂わせながら2人を出迎えた。

    取り敢えず案内されたテーブルについてレストラン内を観察していると、先程のゾンビ店員が注文を取りに来た。


    「な・に・ん・ま・し・か・ま・す・・・ぐぶぶぶ」(なんにしますか?)


    テーブルに置かれた泥水入りのコップを手に取り眺めながら・・・


    「ちょっと待って。・・・決めたら呼ぶから。」


    「・・・あ、い・・・」


    ゾンビが背を向け歩き去って行く。


    「・・・おにま・・・妖魔がたくさんいるよ~。」


    「ああ・・・店員から客迄、全部だな。」


    「うん・・・どうするの?」


    「・・・ま・・・お前がなんとかするだろ?」


    「えぇ~っ?なんでぇ~!」


    不服そうに僕を睨む雀だったが、死者に憑りつく妖魔は基本的にレベルが低いので今日子で十分、僕が出るまでもないだろう。

    妖魔にも質の違いやレベルがある。

    朱雀の様に人間に悪さをしない(寧ろ守る)妖魔と(前回のお話しに登場した猫娘の様な悪さをする)妖怪・鬼の類・・・が質の違い。

    レベルで言うと式神の様な霊的に高いものと座敷童の様な低いものがいた。

    死者に憑りつく妖魔は基本的にレベルも質も最低だ。

    レベルが高い式神クラスだと死体を蘇生させて(死んだ妹を蘇生させて憑依した朱雀の様に)平然と人間界に溶け込む。

    レベルが低いとそれが出来ずに死体に憑りついてしまう結果になる。

    語り継がれる「蘇り伝承」の殆どがその例だ。

    あげくは腐って肉体は滅び、それとともに妖魔も滅んでしまう。
    (妖魔は憑依を繰り返すことは出来ないのだ。1回憑いたら他にはいけない。)

    憑りつく標的がいない奴はフラフラそこら辺を漂うはめになる。




    ちょっと観察したところ、このゾンビたちは悪さを仕掛けるつもりは無い様だ。

    しかし・・・まあ・・・人間様の勝手だがここは消えてもらうしか解決策が無さそうだ。


    「雀、喰え。」


    「あ、また雀ってぇ~。もう、私は朱雀!スズメじゃないもん!」


    「・・もう、メンドクサイから・・・早く、喰え。」


    「・・・・わかったわよ~・・・もう・・・ほんと面倒くさがり屋なんだから~」


    キュイ~ン!!!!!ピカッ!!!!


    朱雀が本来の姿を現す。

    一瞬でレストラン内は妖魔達(ゾンビ)の悲鳴で満ちた。


    憑依した妖魔をスズメが喰ったのであたり一面は死体の山になったが、取り敢えずこの場の処置はこれで終わり。

    しかしながら・・・問題はまだまだ山積している。

    なんでこんなに妖魔が蔓延っているんだ?



    レストランを出発して僕らは鳩ヶ谷地区の中心にある珍々堂医科大学に向かった。

    そこに大きな妖気を感じたからだ。



    閑話休題







    僕は、小泉純一郎。

    有名な元総理と同姓同名・・・

    でも、全く赤の他人。


    僕のおじいちゃんは、小泉八雲・・本名(旧姓)ラフカディオ・ハーン。


    おじいちゃんは怪談話ばかり書いていた小説家だ。

    でも、でも、おじいちゃんは作り話を書いていたのではない。

    おじいちゃんの実体験を書いていたのだ。

    そう・・・おじいちゃんには全て見えていたのだ。


    僕もその血を受け継いでいて、色んなものが見えちゃうんだよなぁ~・・・

    この血は隔世遺伝らしく、僕の父にはその能力が無い。

    というか、その存在すら知らない・・・らしい。

    おじいちゃんの話によると、能力がある者にだけきちんとした話をするらしい。


    僕の能力をおじいちゃんが見つけたのは、妹の今日子が病気で死にそうになっ

    ていたときに僕がそばにいた死神を追い払おうとした時だ。

    その場にいた父や母は僕が何をしているのか分からず、ただ、妹の死に直面し

    て癇癪を起こしていると思っていたみたい。

    ただ、おじいちゃんにも死神が見えていたので、僕の行動はおじちゃんにはハ

    ッキリと僕の能力を確信させたものになったようだ。

    残念ながら、死神を追い払うことはおじいちゃんにも出来ないらしく妹は死ん

    でしまった。

    ただ、余りにも僕が悲しむのでおじいちゃんはそれを見かねて僕の式神になる

    はずだった妖魔を妹のなかに入らせて妹を・・・妹の体だけだが・・・生き返

    らせた。


    代々、式神とはコノ血を受け継ぐものの伴侶、または執事として生涯仕えるも

    のらしい・・

    だから今、今日子に入っている妖魔は、本当は僕の奥さんになるはずだった・・・

    みたい。

    そのせいか・・・・すっごいヤキモチ焼きだ。

    時々、手に負えない・・・・。


    しかし・・・・まあ・・・こいつのおかげで父や母は妹を失う悲しみを味合わ

    ずに済んだし、僕も姿形だけでも妹と過ごすことが出来ているので文句は言え

    ない。

    その上今日子に入っている式神は朱雀と云って結構有名な守り神らしく、召喚

    したおじいちゃんも羨ましがっていた。


    まあ、そんなこんなで・・・・おじいいちゃんが亡くなった後、色んなものが

    見える能力を引き継いだ僕にはおじいちゃんの知り合いを通して様々な依頼が

    来るようになった。

    迷惑な話だ。

    しかも・・・来た依頼を結構サクサク解決してしまったので、その世界でそこ

    そこ有名になってしまった。

    そうなるともっと依頼が来るようになり・・・・悪循環だ・・・・・

    父や母を心配させないように僕はこの能力を秘密にしているので、色んな出来

    事を隠すのも一苦労なんだ。

    フェラーリ


    ある日、大学から帰ってくると家の前にフェラーリ・ランボルギーニ・ヴェネーノが停まっていた。


    「なんだ??豪勢な客でも来てんのかな?」


    独りごちて玄関を開けた。


    「ただいまー。」


    声を掛けて家に入ると、いつもならダッシュで出迎えるはずの今日子が出てこない。

    まだ帰ってないのかと沓脱をみると靴はある。


    「おーい、今日子?いないのか?」


    奥のリビングに声を掛けてみたが返事がない。

    どうかしたのかとちょっと心配になってリビングから今日子の部屋へと向かった。


    「お~い、今日子、開けるぞ~。」


    今日子の部屋のドアを開ける。


    「キャッ!・・・ちょっと~!レディの部屋のドアをいきなり開けないでよ~!着替えてたりしたらどうすんのよ~!」


    「ふん!知るか、お前の裸なんか見ても何とも思わないさ。」


    「あ~~~~!!!すっごい失礼!!!」


    「うっさい!!!・・・ん?なんかおかしいな?・・・お前、なんか隠し事してないか?」


    「・・・・し、してないわよ・・・・」


    明らかに動揺した今日子を追い詰めるのは簡単だ。


    「こら!!ご主人様に隠し事する式神はタコツボにでも閉じ込めちゃうぞ。」


    「・・・・あ、だめ。そんなことしちゃ嫌だ・・・。だめ・・・。」


    「じゃあ・・・全部話せ。」


    「・・・・はい・・・・あの・・・ちょっとした依頼があって・・・・。」


    「依頼?ふ~ん・・・・。いつ?」


    「あの・・・その・・・1週間くらい前・・・・。」


    「はあ~?なんで1週間も俺に黙ってたんだ?」


    「あの・・・・その・・・・」


    あ!!!!あの車!!!!


    「こら!!!雀!!!!てめ~、また、遣い込みしやがったな~!!!」


    「・・・ごめんなさい。・・・あの・・・丁度免許取ったので・・・つい、車欲しくなちゃって・・・。」


    「このばか!!車欲しくなったからって、ランボルギーニとはどういう了見してやがんだ!」


    「あ、でも・・・カッコよかったんだもん・・・。」


    「カッコよかったって・・・ふざけんな!一体いくらしたんだ!?」


    「・・・・その・・・4・・・ぉくぇん・・くらい・・・」


    「は~~~~~~~~ぁ~~~?4、お、く、えん?」


    「・・・うん。」


    「てめ~!!!殺すぞ!!!一体どこからそんな金出したんだ!!!」


    「あ、その・・・だから・・・1週間前の依頼金・・・・・」


    「はぁ?依頼金?・・・前金4億もか?」


    「あ・・・・その・・・前金じゃなくて・・・・。」


    「・・・・全部で4億か?・・・・それ全部使ったってのか?」


    「・・・・・は・・・・ぃ・・・・。」


    「・・・・死ねよ、バカ雀。・・・ま、お前が遣ったんだ、どんな案件かは知らんけど、お前が勝手に解決するんだな。」


    「そんな~~~~・・・・。おにま~~~~~。」


    「ふん・・・・甘えても知るか!!」


    「・・・・すっごい事件なの。私じゃ無理・・・・おにま・・・。」


    それから30分くらいスズメを虐めて過ごした後、その依頼内容を聞かされたが・・・・。

    冗談じゃない!まだ俺は死にたくない!原因不明の集落全滅事件なんてかかわりたくないって~の。

    しかし・・・4億も遣い果たしやがったスズメのせいで、折角の週末なのに・・・・泣く泣く現場となった埼玉県へ向かう羽目になった。



    閑話休題

    終末の予定 19

     04, 2016 07:00
    天使の梯子


    天国の階段 Stairway to Heaven



    美於士からの電話があった後、杏は屋上へと向かった。

    家に帰る前に屋上から(滅び去った)街並みを眺めるのが杏の日課になっていた。

    フェンス際に移動させたベンチに座り街並みを眺めながら美於士の帰りを待った。

    暫くして持ってきた携帯が鳴った。


    「もしもし」


    「もしもし、杏姉さん、何処にいるの?」


    「屋上。」


    「解った、今から行く。」


    「うん、待ってる。」


    思い切り背伸びしながら杏は久しぶりの笑顔を浮かべていた。







    「杏姉さ~ん。」


    入り口から懐かしい美於士の声が辺りに響き渡る。

    そのまま駆け寄る美於士に杏は笑顔を向ける。


    「・・・帰ってきたよ、杏姉さん・・・」


    美於士は勢い余って杏を抱きしめた。


    「ちょ、ちょっと!!!何してんのよ!!!」


    美於士の体を押しのけながら睨みつけたが、杏の口元はほころんでいた。


    「アハハ・・・ごめん、ごめん。つい・・・ね。」


    「ふん、まあ、今日の所は許してあげるわよ。」


    「アハハ・・・やっぱり杏姉さんは杏姉さんだ。」


    「何よ、どういう意味!人聞き悪いわね。」


    「ハハハ・・・人聞き悪いったって・・・誰も居ないし・・・。」


    「ま、・・・それは、そうね・・・まあ、よく帰ってきたわね。」


    そう言いながら美於士の頭をポンポンと叩いた。

    しばらくは帰還を祝いながらそれまでの二人の状況を確認し合った。

    そのうちに美於士が1年前のあの事件の話を切り出した。


    「杏姉さん・・・・ホントの事を教えて欲しい・・・。」


    「何よ、ホントの事って・・・・。」


    「・・・・ずっと考えていたんだ。媛ちゃんと史さんの死に方は・・・」


    「・・・もう良いじゃない、そんな事・・・・。」


    「いや・・・どうしても知りたいんだ・・・。お願いだから・・・全部話して・・・。」


    「・・・・全部って・・・何が知りたいのよ。・・・二人は裸で抱き合って死んでいた・・・それだけよ。」


    「・・・うん・・・それはわかってるよ。でも・・・何故そうなったかを知りたいんだ・・・」


    「何故って・・・私も知らないわよ。」


    「・・・いや、杏姉さんは知ってるはずだ。だってあの二人の死に方は・・・今回の皆の死に方に関係してるよね。」


    「そ、それは・・・。」


    「勿論、始めは気付かなかったよ。でも・・・よくよく考えたら・・・あの日、杏姉さんは何をしたの?」


    杏は黙りこくった。


    「・・・お願いだから・・・教えてよ。頼むよ・・・・。」


    「・・・・・解ったわよ・・・・。」


    杏は2年前の誕生会以降の出来事を全て話して聞かせた。

    破滅の細菌を濔教授から奪った後、媛と史にそれを使った事も・・・・


    「・・・・やっぱり・・・・やっぱり・・・・・媛ちゃんを殺したんだね。」


    「・・・そうよ。私から史さんを奪った人間を許せる理由ないじゃない。」


    そう言い終わると同時に杏はベンチに頭を打ち付ける形になった。

    一瞬何が起きたのか解らなかった。

    息ができない・・・・。

    そう思った杏の目に美於士の必死の形相が映る。


    「う・・・・何・・・して・・・んの・・・・」


    「・・・杏姉さんが悪いんだ・・・・いくらなんでも・・・媛ちゃんまで・・・。」


    「や、やめ・・・て・・・・・」


    「・・・・許さない・・・・媛ちゃんだけは・・・・ダメだ・・・・」


    緩まぬ首筋への圧迫を跳ね除けようとする事は出来たが、杏はしなかった。

    薄れゆく意識の中で・・・そうだ、あの少女期にも美於士に殺されたかったのだと思い起こしていた。

    これが私の願いだったのかも知れない・・・・・・。

    首を絞められながら杏の口元はほころんでいた。

    しかし、意識とは別に杏の右手は白衣のポケットに忍ばせたメスを握り締め、そのまま美於士の首に突き立てた。


    「ぐはぁ~~・・・。」


    美於士は杏の首を絞めていたベンチから崩れ落ちた。


    「美於士・・・・」


    杏は床に倒れた美於士の首の傷口にハンカチを押し付け、圧迫止血をしながら美於士の体を抱きかかえベンチに座らせた。


    「杏・・・姉・・さん・・・・」


    「・・・黙って・・・ここ押さえときなさい。じゃ、無いとすぐに死んじゃうわよ。」


    「杏・・・僕まで・・・殺す・・・の・・・」


    「・・ふん、何言ってるのよ・・・私を殺そうとしたのはアンタじゃない。・・・もう黙ってなさい・・・。」


    「・・・それは・・・姉さ・・・・助け・・・て・・・。」


    「・・・・美於士・・・助かってどうするの・・・誰も居ないこの世界で何すんの?」


    「・・・・ふ・・・それ・・も・・・そう・・だ・・ね・・・。」


    暫くの沈黙・・・・

    2人の目の前の夕日から地上に光が伸びていた。


    「・・・杏・・姉・・・」


    「・・・黙って・・・もう何も言わなくていいから・・・・」


    「うん・・・あの・・・光・・は、し、ら・・・」


    「・・・うん、何・・・。」


    「あれ・・・天・・国・・・の・・か・・いだ・・・ん・・って・・言うんだ・・・。」


    「へ~・・・・そうなんだ・・・・。」


    「うん・・・」


    「綺麗ね・・・・・。」


    再び、暫しの沈黙・・・・


    「・・・姉さん・・・・僕・・・約束・・・守ったよ・・ね・・・。」


    「・・・そうね・・・指切りしたもんね。」


    「うん・・・」


    そう言い終わると美於士の頭が杏の肩へと傾いた。

    そっと美於士の頭に手を充てた後、杏は右手に持っていたメスを自らの首筋へ当て、そのまま引いた。




    「美於士・・・あの階段・・・・私は登れそうに無いわ・・・・。」





    杏の瞳を最後に映したものは世界を燃やし尽くす様な真っ赤な夕陽だった。








    「杏ちゃん、こっちにいらっしゃい。」


    「なあに、お祖母ちゃん・・・・。」


    杏が祖母の側に行くとそこに小さな男の子がいた。


    「美於士・・・・挨拶しなさい・・・従姉妹の杏姉さんだよ。」


    「杏?姉さん?・・・・」


    「そうだよ。杏ちゃん、この子は美於士って言いうの。可愛がってね。」


    「美於士?」


    「そうよ。」


    「ふ~ん・・・美於士・・・よろしくね。」


    「うん・・・」


    「・・・今日から私が美於士のおねえちゃんになってあげるわ。」


    「・・・ホント・・・わ~い。おねえちゃん。」


    「うん・・・美於士はおねえちゃんの側にずっといるのよ。」


    「うん・・・ずっといる~~~。おねえちゃんと一緒~。」


    「・・・死ぬまで一緒だからね~。」


    「うん、僕、杏おねえちゃんとずっと一緒にいる~~~。」


    「じゃ、指きりげんまん。」


    「うん・・・指きりげんまん、嘘ついたら・・・・・・」









    終末の予定 18

     03, 2016 07:00




    始めから定まりし終わりの理 Termination (3)



    媛と史の死因が共に性行為中の腹上死(媛は呼吸器不全、史が心不全)との検死結果が何処からともなく医局へ伝わり、杏と美於士は医局で好奇の目に晒される事となった。

    塞ぎがちだった美於士はそれに耐え切れず長期の休暇を申請し許可された。




    「杏姉さん・・・ちょっと旅に出てくるよ。」


    力無く笑う美於士へ杏は封筒を渡した。

    中身は金・・・300万円ほど入っている。

    中身を確認して美於士はちょっと驚いた様だ。


    「・・・何驚いてんの?・・・・それくらいの金で。」


    「・・・いや・・・その・・・杏姉さんが・・・・。」


    「・・・ふん、私の様な守銭奴がなんで?って。ふふふ・・・。」


    「あ、いや、そんな意味じゃなくて・・・・。」


    「ふん、無理しなくていいわよ。アンタの顔見れば言いたいことぐらい解るわよ。何年一緒にいるのよ。」


    「あ・・・・それは・・・。」


    「気にしなくていいわよ。・・・・まあ、今回の事の原因は・・・勿論アンタのせいよ。・・・でも、まあ、私にも1%くらいは責任があるかもってね・・・。だから、それで気晴らしでもして来なさい。」


    「・・・1%・・・しかないの?・・・ハハハ・・・杏姉さんらしいや。」


    「ふん、まあ、ちょっとは軽口が叩ける様になったのね。まあ、早く帰って来るのよ。・・・(もう、私の側にはあんたしか居ないんだから)」


    最後の言葉は飲み込んだが、気持ちは十分に伝わった様だった。


    「・・・うん・・・有り難く借りとくよ。ちょっと遠出でもしてみようかな。」


    「そうしなさい。」


    美於士の頭をポンポンと叩き杏はその場を後にした。

    それきり美於士の消息は途絶えた。



    それから半年後、杏が銃爪(ひきがね)を引いた滅亡へのカウントダウンは終焉の時を迎えようとしていた。

    一旦、事態が終息したかに思えた為、政府は被害地区近隣の封鎖を解いた。

    それにより細菌の拡散は地下世界のみならず、地上でもその速度を増す結果となった。

    細菌は地下世界での拡散の時期にその性質を変貌させ2週間の潜伏期間と云う自己保全の手段を取得していたのである。

    この2週間で細菌の拡散は静かにそして広範囲へ及んだ。

    そもそもこの細菌は「濔 教授」が創りだした物ではなく、元々地上に古くから生息していた通常は全く無害な細菌であった。

    しかし、その分裂期に、ある一定の割合で突然変異を起こす。

    濔 教授はその突然変異体を人工的に作り出しただけであった。


    その突然変異体が今回の悲劇を齎している細菌であった。

    ある一定の割合とは、実は天文学的数字に1回しか起こらない為、有史以来、人類や他生物に対し壊滅的打撃を与える事は殆ど無かった・・・今までは。

    今までも実は世界中でそれは起きてはいた。

    数百年に一度、世界の何処かで起きていた集落の全滅事件、船舶の消失事件、等である。

    然しながら今までは文明の未発達さ故、そういう事件が起こると原因不明の疫病として被害集落に火をかける等、人類はそうとは知らずもきちんと隔離や殺菌作業を行っていたのだ。

    それが現代のグローバル社会では機能しなくなった。

    人々の移動速度は隔離を不可能にし、人権問題で集落の焼き打ち等考慮さえされなかった。

    そうした中、埼玉の1集落から拡散を始めた細菌は交通網の発展により潜伏期間の2週間で車、鉄道、航空機、あらゆる手段で世界中へ運ばれて行った。



    2016年 1月中旬


    関東地区全域は終末の様相を呈した。

    路上には遺体が散乱し、建物の炎上は地上を焼き尽くした。

    それを報じるマスコミも数日で使命を終えた。

    それから数週間後には日本全土から生きとし生ける者全て姿を消した。

    ほぼ時を同じくして地球上で同じ現象が起こった。

    ただ・・・10億分の1の確率でこの細菌に耐性を持つ者がいた。

    生き残った最後の人類はそれぞれ呼びかけ合いその存在を確かめ合っていた。

    北米に1人、南米に1人、中国に1人、英国に1人、南アフリカに1人・・・

    しかし、もはや集結する手段も失っていた。

    そのうち、1人、また1人と連絡が途絶え始めた。

    生命が失われたのか・・・単に電力が失われて連絡の手段を失ったのかさえ確認の仕様が無い。

    人類はその終焉を迎えた。



    終末期、杏はバタバタと倒れていく同僚、患者を為す統べなく見送り続けた。

    まさか人類滅亡の張本人の自分が細菌耐性をもつほんの一握りの体質だとは思いもせず、自分に訪れる順番を黙って待っていた。

    しかし、周りに誰もいなくなり、日本中から人が消え去っても杏は生きていた。



    日本中から生き物が絶滅した後も、朝起きると顔を洗って朝食を摂り出勤する。

    病院へ着いたら白衣に着替えて医局で医学書を読んだ。

    患者を診察していた時間が無くなった以外はそれまでと全く同じ生活を送った。

    インターネット上で世界に生存者が数人いることは知っていたが、連絡をとりあう気は全く無かった。

    意味が無い・・・・・それだけの理由だ。

    食事や飲水は杏一人の分くらいはスーパーやコンビニの冷凍食品で十分事足りた・・・・今はまだ。そのうち電気が止まればそれも失われるが。

    その時は死ねばいいだけだ。



    2016年 6月 6日


    誕生日の朝を迎えた。


    「・・・誕生日か・・・お祝いしなきゃ・・・・」


    独り言ちていつもの様に病院へ向かう。

    そのまま1日が終えようとした時、机の上に置きっ放しにしていた携帯が突然鳴った。


    「きゃっ!・・・・」


    驚いて携帯を取り上げ着信を見る。

    名前をみて杏は目を見開き、慌てて通話ボタンを押す。


    「はい・・・もしもし、美於士?美於士なの?」


    「・・・もしも~し・・・杏姉さん・・・・杏姉さん・・・・」


    「・・・美於士・・・生きていたの・・・・・」


    「・・・・ああ・・・姉さんも・・・・」


    「今、何処にいるの!何処?」


    「あ、うん・・・やっと東京に着いたんだ・・・・」


    「・・・何処にいたのよ~!!!連絡もしないで・・・・」


    「ああ・・・ごめん。チベットに居たんだ・・・帰る手段が無くて。取り敢えず韓国まで乗り捨ててあった車を乗り継ぎながら来て、そっから船で九州に・・・でも途中で沈みそうになって死にかけたりして、ハハハ・・・でやっとね。」


    「・・・・もう・・・早くこっち来て顔を見せて。」


    「あ、うん・・・で、杏姉さんは今何処にいるの?」


    「あ、病院にいるわ。」


    「病院?・・・何してんの病院で。」


    「別に何も・・・・そんな事はどうでもいいから、早く帰ってらっしゃい!」


    「あ、うん・・・解った。近くの車探してすぐ行くよ。」


    「うん・・・待ってるわよ。」


    「あ、そうだ。言い忘れてたよ。杏姉さん、誕生日おめでとう。」






    閑話休題

    終末の予定 17

     02, 2016 07:00





    始めから定まりし終わりの理 Termination (2)






    しばらくして杏が気が付いた時には現場検証は終わり、2人の遺体は検死に回されていた。

    捜査員達の好奇の目に晒されながら杏と美於士はその場で簡単な事情聴取を受けた。


    「・・・ふむ、それでは男性があなたの恋人で、女性がそこの彼の恋人である、と云う事ですね。」


    「・・・はい・・・・。」


    「と、云う事は・・・・死亡していた2人は共に、今こちらにいらっしゃるお二人を裏切っていた、ということになりますが・・・・。」


    「・・・はい・・・・。」


    「・・・・それには全くお気づきでは無かったと?」


    「・・・・はい・・・・。」


    「う~ん・・・・そんな事ありえますかね~。」


    それ迄黙っていた美於士が血相を変えて捜査員に噛み付いた。


    「いい加減してくれ!!!こんな事気付いていたら黙っているわけがないじゃないか!」


    その剣幕に押されたのか捜査員が無礼を詫びる言葉を2人に掛けた。

    遺体の状況から他殺や自殺の可能性は少なく病死であろうと見立てているようだ。

    捜査員達や美於士が訝しんでいるのは、何故、2人同時にかということだけだ。

    杏は全く事情も解らず混乱している史の恋人を演じ続け、かつ、演じきった。

    そして二人は捜査員達の同情を受けつつ開放された。


    帰り道、美於士の泣き言を沈痛な面持ちで聞き流しながら、2人の最後の姿を思い起こし改めて媛に対する憎しみを募らせた。

    しかしそれは自らがしでかした行為の結果であると云う事に杏は目を向けない。




    杏のやった完全犯罪にはもう一つの穴があった。

    浴室の壁に細菌をぶち撒けた後、その容器を殺菌する事無くそのままトイレに流してしまった事だ。

    杏は媛に死んで欲しかっただけ、いや、殺したかっただけで、人類を滅ぼす気など全く無かった。

    然しながら、杏が取った行為はその危機を産んでしまった。

    トイレに流された容器には微量の細菌が残っていた。

    それが下水へと流れ着き、下水の環境での増殖を招いた。

    ・・・細菌が増殖するに必要十分条件・・・・温度、栄養素、水、全てを整えた細菌培養器とも言える環境だった。

    都市に張り巡らされた下水道で細菌は増殖し、ネズミの体毛やゴキブリの羽根に付着した細菌はその繁殖範囲を少しづつ、そして確実に広げていった。

    6月~9月は細菌の死滅温度30度を地上の気温は超えていたので細菌が地上へと拡散することはなかった。

    また、10月以降は地上の気温が下降したが、逆にその為にネズミなどが地上に出る事等を減少させたので、その時期もまた地上への拡散は避けられた格好になった。

    しかし、その時期、地下世界・・・下水道網で細菌は猛威を奮っていた。

    ほとんどの生物が下水道から姿を消した。

    地下世界では細菌を培養し続けていた泥流や苔類だけが蔓延っていた。





    2016年 1月



    ついに人類は終末の予定の足音を聴き始める。



    発端は埼玉県の田舎町の山中の集落だった。

    年明け早々、ある集落の下水道が大量のネズミの死骸によって堰き止められ溢れ出すと云う出来事が起きた。

    すぐさま行政は業者へと依頼しその件を処理したかに見えたが、いつまで経っても業者からの報告が上がって来なかった。

    痺れを切らした行政は自らその地区へ連絡を取ろうと試みたが、(既に時遅く)集落とは一切連絡が付かない事態になっていた。

    またその時期が正月休みと重なっていたことも事態の収拾に災いした。

    それが原因で、事態が近隣へと拡散している事に気がつくのがかなり遅れてしまった。

    緊急の事態を県が把握したのは丸1日経過してからで、政府に報告が上がったのは2日経過してからであった。

    その時には既に死者の数が(たった2日で)300名を超えていた。

    政府はマスコミに国民のパニックを避けると云う名目で報道規制をかけた。

    その上で被害の原発地区の近隣を隔離処置して、被害の拡大を防ごうと全力を尽くした。

    しかし・・・・・政府も又、杏と同じく地上の事しか視野に入っていなかった。



    近隣の隔離から7日ほどでその事態は終息したかに見えた。

    政府は原因の究明に、国の全ての機関を駆り出して躍起になったが、結局主たる原因と呼べるものは発見出来ずに終わった。

    死者の死因が心不全、呼吸不全、突然の脳死、内臓の溶解、劇症的な白血病、等多岐に渡って原因の特定が出来なかったのだ。

    同時に一見事態が終息したように見えた為、マスコミは報道規制の撤廃を求め、それに抗する事が出来ずに政府は報道規制を解除した。



    報道の解禁で社会は大騒ぎになった。

    しかも原因が解明されていない為、あらゆる流言飛語が飛び交う事となった。

    その中で、安倍御主人(あべの みうし)の予言の文(ふみ)が明らかになった。




    騒然とする社会の中、この地上でその原因を知っている者が唯一人いた。

    杏である。

    報道が始まって、すぐに杏はその原因に思い当たった。

    半年ほど前に自分が行った完全犯罪・・・の余波が人類を破滅の危機に導いている。

    しかし・・・・・それを知らせる事も出来ず・・・そのまま終息してくれる事を神に祈るしか無かった。




    ひと月ほどのち杏は、自身の神への祈りが届かなかった事を知る。





    閑話休題

    三茶狼の穏やかな1日

     01, 2016 16:00



    私はみんなから、三茶狼と呼ばれ恐れ…忌み嫌われている。

    こら!

    三茶楼ではない!

    中華屋じゃない!

    狼だ!「お お か み」 と書くのだ!


    この道では、知る人ぞ知る偉大な…伝説的人物なのだ。



    しかし、そんな私も毎年誕生日が近くなると気が滅入る。

    どんなに人に恐れられ…私が歩くと川が割れたように人並みが一本の通り道を作る。

    私が睨むだけで、人々は縮み上がり、私が怒鳴ると人々は地べたにひれ伏してしまう。

    そんな私でも…

    いや、そんな私だからこそ、毎年の誕生日を傍で祝ってくれる人が誰ひとりいない。

    これは、結構キツいもんだ。

    ・・・・等と毎年誕生日に愚痴を言っていたら、ちょっとした商売仇を消した次の年からそいつの女から毎年ナイフでブスりと血染めのお祝いを貰うはめになってしまった。

    最初の年はまあ、俺も後ろめたい気持ちもあって警察沙汰にはせずそのまま放っておいたがさすがに2回目は(ちょっと重症で意識を失った事もあり)店の主人が警察に通報して、その女はお縄になってしまった。

    もっとも俺としては警察なんぞに関わる気は無かったのだが、行き掛かり上止むを得ずといった感じで事情聴取に応じたのだ。

    しかし、これがまずかった。

    叩けば埃が出る身の上としてはやはり警察沙汰は避けるべきだったのだ。

    事情聴取の途中から雲行きが怪しくなり、最終的にはこっちもお縄を頂戴するハメに陥ってしまった。

    警察署の廊下ですれ違った奥菜の女が俺を見て甲高い笑い声を上げるのを俺は苦々しく睨みつけるしか無かった。

    俺を刺した奥菜の女も、刺された俺も仲良くブタ箱で3年を過ごす羽目になった。

    しかも出所した日はクリスマス。

    最悪だった。

    その上、その日もあの忌々しい奥菜の女から3度(みたび)のブスリ!・・・・

    またもや入院生活を送る羽目となったのだ。

    勿論今回は警察沙汰にはしなかった。

    ブタ箱生活はもう御免だ。

    そして今日、晴れての退院だ。



    懐かしい我が町三茶をのんびり散策して春うららを堪能した。

    夕陽を眺めながらの帰り道、いつもの店へ顔を出す。


    「いらっしゃい♪・・・あ、ダンナ~、お勤めご苦労様です!!」


    「(・д・)チッ!人聞きの悪い事言うな!」


    「あ、ハハハ・・・すんません。元気になられたようでなによりです。」


    「ああ・・まあ、やっとな。」


    「この街もダンナが居ないと困りますから、良かったですよ~。」


    「ふん・・・相変わらずオベンチャラだけは1級品だな。」


    「そんな~、ホントの事ですよ~。」


    「ふん、まあ良い。・・・・いつものバーボンくれ。」


    「はい、お待ちを。」


    その時、背後に人の気配を感じた。


    「・・・お、お前・・・・。」


    咄嗟に身構える。

    あの奥菜の女だ。


    「フジタ~!久し振り~。」


    「な、なんだ!またやろうって言うのか!いい加減にしないか!」


    「・・・もうやらないよ~。いい加減、気が済んだから・・・・。あの人が死んでもう・・・・。」


    「・・・・ああ・・・悪かったよ。仕方なかったんだ。もう許してくれ。」


    「・・・ああ・・・許してやるよ。・・・・その代わり、1杯奢って・・・・。」


    「ああ・・・勿論だ。好きなものを呑め。」


    「マスター・・・私もフジタと同じもん。」


    「は、はい。お待ちを。」


    私は数年来、刺されつ刺されつ(やられっぱなしだったので)の関係だった奥菜の女(ああ・・もうこの呼び名も終わるという事だな)と酒を酌み交わした。

    久々にご機嫌な夜を過ごしていた。

    店の壁にぶら下がっている年代物の柱時計が12時を知らせた。

    おやおや・・・午前様になってしまった様だ。

    まあ、良い。

    帰ったところで最近は待っている女もいない。

    その時・・・・


    ブスッ!!!!!!!


    「うっ!!!・・・・な、なんだ!何をする・・・・・」


    奥菜の女の手にはいつもの包丁が握られていた。


    「何故だ?・・・・許すと言ったではないか・・・・」


    「ふん!!!バカか?私がお前を許すはずがないじゃない。」


    奥菜の女はせせら笑って私を見下ろしていた。

    私は4度(よたび)店の床に横たわり、辺りは私の血で染まった。


    「・・・何故だ・・・じゃあ、何故今日・・・・。」


    薄れゆく意識の中で奥菜の女に問いかける。


    「だって・・・もう今日じゃないよ、昨日は4月1日・・・エイプリルフールじゃない。誰も相手にしてくれない可哀相なあんたと遊んでやったのよ。有り難く思いなさいよ。」

    キャハハ・・・・と大声で笑いながら奥菜の女は店から消えた。

    そうだな・・・・確かに誰も相手にしてはくれなかったな。


    「ありがとよ・・・・・。」


    そうつぶやいて私は目を閉じた。




    閑話休題

    終末の予定 16

     01, 2016 07:00




    始めから定まりし終わりの理 Termination (1)



    2015年 6月 7日 (日)


    その日は夏前にもかかわらず朝から気温が30度を超えた。

    東向きの杏の部屋の温度もお昼前には30度を軽く超えていた。

    南向きの媛の部屋は更に暑いはずだ。


    杏は一縷の望みを掛けて昼過ぎに史の携帯へ連絡を入れてみた。

    ルルル・・・・呼出音が暫く続きそのまま留守番電話に切り替わった。

    ついに杏は諦めた。


    次の日、新しい週が始まる。

    通常なら何の変哲も無い月曜日、医局はちょっとした騒ぎになった。

    講師でもある藤原 史が無断欠勤したのだ。

    携帯は繋がらず、実家へ連絡したが週末から戻って無いと云うことで医局長から杏へ直接確認が来た。

    杏との仲は医局では知らぬ者が無かった。

    杏は正直に6日の深夜、輝夜 媛宅から帰宅途中で史が急用を思い出しその場で別れた事を報告した。

    行方が全く解らない事で一層騒ぎになり、杏は困惑の表情を見せオロオロするばかりであった。

    仕事が手に付かないだろうと云う事で杏は勤務を外された。

    周りの好奇の目から逃れるように杏は病院を後にした。


    自宅に帰り着き一息付いていると美於士から電話が来た。


    「はい、どうしたのこんな時間に?」


    「杏姉さん・・・・どうしよう、どうしよう・・・」


    「なに?どうしたの?」


    「どういう事?・・・わかんないよ、杏姉さん・・・どうしよう・・・」


    「もう!何よ。くだらない相談ならまた今度にして。こっちは今それどころじゃ無いの。」


    「くだらない事じゃ無いんだ・・・媛ちゃんが・・・・」


    「もう、また媛ちゃんの事なの。もうそんなの自分で解決しなさい。切るわよ。」


    「待って!!杏姉さん、媛ちゃんが・・・」


    「いい加減にして!!!!」


    「ち、違うんだ・・・ううう、媛ちゃんが死んでるんだ・・・・」


    「な、何馬鹿な事言ってるの!冗談に付き合ってる暇はないの。」


    「違ううう・・・ホントなんだ・・・媛ちゃんが死んでるんだ・・・・」


    「何言ってるのよもう!史さんが居なくなって大変なんだから、冗談はまたにして!」


    「冗談じゃないってば!・・・杏姉さん・・・それに・・・藤原先生もここに居るんだ。」


    「な、なんですって!!!どうして史さんがそこに?・・・美於士、史さんに替わって!!!」


    「そ、それが・・・・史さんも死んでるんだ・・・・」


    「いい加減にしなさいよ!あんたそんな冗談言ってると殺すわよ!」


    「・・・杏姉さん・・・冗談じゃ無いんだ・・・2人とも死んでるんだ・・・・」


    「・・・・・嘘でしょ・・・・嘘よね・・・ねぇ、美於士!嘘よね!!」


    「・・・いや・・・ホントなんだ・・・。」


    「何処?あんた今何処にいるの?」


    「媛ちゃんの部屋・・・・。」


    「すぐ行く。」


    慌てた様子で電話を切って杏は部屋を飛び出した。

    車を飛ばし媛の部屋へと向かったが媛のマンションへ着いた時には既にパトカーや野次馬が周りに詰めかけていた。


    「スイマセン、通して下さい。」


    「ん?君は?」


    立ち番している警官から止められた。


    「あ、はい・・・中にいる安倍から電話を貰って・・・。ここの子は私の幼なじみです。それと・・・」


    言い掛けたところで中から声が掛かった。


    「あ~、田宮さんかな?」


    「あ、はい・・・そうです。」


    「うん・・・どうぞ、入って。」


    促されて部屋の中に入る。


    「杏姉さん・・・・」


    グッタリした美於士が杏に救いを求めていた。


    「一体何があったの?」


    美於士への質問だったがそれを遮り警官が遺体の確認を求めてきた。


    「すいませんが、先に確認をお願いします」


    「はあ・・・・」


    恐る恐ると云う感じで杏が毛布の掛かったベッドへと近づき、警官が毛布を上げる。


    なんと・・・2人の遺体は・・・全裸で折り重なっていた。


    杏は自分の目を疑った。

    そんな・・・いくらなんでもこんな姿で・・・・

    中学以来、15年振りに杏は失神した。




    閑話休題
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