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    終末の予定 2

     18, 2016 07:00


    前兆・・・・The Omen(1)


    2015年5月末日




    死亡診断書


    氏名 濔 理愛 (でい りあ)

    年齢 42歳

    (中略)

    死因 心不全

    (中略)

    担当 田宮 杏




    濔 理愛は帝国医科大学卒業後、その優秀さを担当教授に買われ国内最大の細菌研究室に入局。

    その後研究一筋に10数年ひたすら奉職していた。

    役職も順調、いや異例の速さで教授に迄昇進し40歳で研究室の主任に迄抜擢されていた。

    研究内容は生命の基本因子であるテロメア(細胞分裂の寿命を司る。細胞分裂を繰り返すとテロメアが短くなり、やがてテロメアの消失と共に生命は死を迎える)の短縮を止める(又はそのスピードを抑える)と云うものであった。

    完成すれば勿論ノーベル賞級の研究であった為予算も優先的に配分され研究自体は順調に進んでいた。

    あと僅かでテロメア短縮のメカニズムとその抑制方法の完成に辿り着くと思われた時、濔 理愛は・・・運悪く・・・テロメアの短縮抑制実験中、かすかな温度差で抑制に働くはずの細菌が一気にテロメアを消失させる結果になると云う事実を発見してしまった。

    この実験結果が濔理愛を天界から地獄へと突き落とす事となった。

    この細菌が拡散し、ある一定の気象条件が整った場合地上は一瞬にして地獄へと変貌してしまう・・・・正に最強の細菌兵器になり得る為である。

    大学の倫理委員会は研究の即時中止を決定し研究室は解散された。

    担当教授の怒りの矛先は濔理愛へと向かった。

    八つ当たり以外の何物でも無かったが濔理愛に為す術は無く、濔理愛の研究者としての生命は絶たれた。

    失意の元、濔理愛は埼玉県にある系列の珍々堂医科大学へと異動した。

    しかし・・・・・濔理愛は乳酸菌の研究室の片隅で一人で研究を続けた。

    但し、その研究はテロメアの短縮を抑えるものでは無く、一瞬でテロメアを消失させる細菌の常温での培養実験であった。

    その研究は1年をかけて完成の時を迎えていた。

    濔理愛の復讐はもうすぐ果たされようとしていた。



    その研究室に一人の女性助手がいた。

    濔理愛の死亡診断書を書いた、田宮 杏 である。

    田宮 杏は珍々堂医科大学を卒業後、同大学病院にて医師として勤務する傍ら乳酸菌の研究に携わっていた。

    その研究室に昨年本院から左遷されて女性教授がやってきた。

    見た目は着飾らず正に研究一筋といった風貌で好感を持たれそうであったが、態度は本院のエリートらしく不遜で、杏やその他の研究者を見下しているのが傍目からはっきりと解る・・・典型的な嫌な女であった。

    杏は勿論関わり合いをなるべく避ける様に務めていたが、ある日、濔理愛がPCのスイッチを切り忘れて授業に出掛けた場に遭遇した。

    声をかけようとしたがPCに映るその研究内容に愕然として声を失った。

    今現在、杏が一番欲しい物がそこにあったのだ。

    証拠が残らず人が殺せる細菌。

    デスクに座りPCを隅から隅まで調べた。

    結果、その研究がその目的を果たされていること、すでに常温で培養され密閉容器に保存されている事を突き止めた。

    杏は即座にそのデータを自分のUSBに保存しPCの元データを消去した。

    密閉容器に保存された細菌も探し当て我が物とした。

    一連の作業が終わった丁度その時濔理愛が授業から戻って来た。

    自分のデスクに戻り一息ついていた濔理愛に素知らぬ顔で杏はアイスコーヒーを差し出した。



    「先生、授業お疲れ様でした。今日は暑いですねぇ、冷たいコーヒーどうぞ。」


    「あら?ありがと。」


    珍しく杏に微笑んだ。研究が完成して濔理愛は機嫌が良かった。

    額に滲む汗を拭きながらグラスに口をつけながら杏に・・・



    「・・・ホント、冷たくて美味しいわね。ありがと。ふ~」



    濔理愛は講義で乾いた喉をそのコーヒーで潤した。

    それは自分の研究の成果をその身で示すことになった。

    細菌入りコーヒー、無味無臭・・・誰にも気づかれず・・・・



    「・・・・はあ~・・あっ・・うっ・・・・」



    濔理愛の瞳に苦しむ自分をじっと見る無表情の田宮杏が映っていた。

    その意味に気がついた時に理愛の心臓はその鼓動を止めた。


    「な・・・・なんで・・・・・」




    殺人ではあったが結果的にこの時点では、杏の行為は世界破滅テロを未然に防いだ英雄的な行為であった。


    一瞬呆然としたが我に返り杏は急いでPCを開いた。


    「・・確かこの辺に・・細菌が死滅する温度・・・温度・・・・あった!・・・空気中30度・・・体内、水中で40度…」


    エアコンのリモコンを壁から手に取り、冷房を暖房に切り替え温度設定を35度にした。

    自分も一緒に死ぬつもりも世界を滅ぼすつもりも杏には無かった。

    ただ単に殺したい女がいただけだ。

    濔莉愛ではなく別の人物が…濔莉愛の研究を頂く為だけに殺した。

    杏にとってその細菌はそれほど欲しい物だったのだ。


    晩春の暖かさと相まって室内の温度はあっという間に30度を超えた。

    濔理愛の体から発散された殺戮の細菌兵器は死滅した。

    杏はほっとしながら熱いインスタントコーヒーを飲んだ。

    さすがに冷たいコーヒーはしばらく飲めそうにはない。


    暫くして杏はエアコンを止め窓を全開にしたうえでナースコールした。


    ピー、ピー、ピー


    「はい、ナースステーションです。どうされました?」


    「内科の田宮です・・・た、大変です。乳酸菌研究室で濔先生が倒れました。意識がなく・・・し、心肺停止状態です。救急キットお願いします」


    「わ、解りました・・・すぐ参ります」


    効くことは無いとわかっている心マッサージを杏は始めた。


    「先生、濔先生、しっかりして下さい!」


    わざとナースコールを切らずに心マッサージをしながら杏は叫んだ。


    「先生!しっかりして!!・・・・死んじゃダメです!!!!」




    そう叫びながら杏の口元はほころんでいた。






    閑話休題
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