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    終末の予定 9

     25, 2016 07:00
    侵食 Erosion (1)



    田宮 杏は人格障害、サイコパスでは無い。

    幼児期における母への傷害致死や父を死に至らしめた行為等は、成長するに従い杏自身を深く傷つけていたのだ。

    それは祖母の杏に対する深い愛情によって、欠落していた杏の人格が修復された証でもあった。

    その杏の心理的自傷行為の現れが安倍美於士へのイジメであった。

    一見、全く逆に思われるが、杏は自身の感情的行動からイジメられれば相手を抹殺するはずだと思い込んでいた。

    杏は美於士に殺してもらいたかったのである。

    しかし・・・・・美於士はイジメてもイジメても杏に懐いてきた。

    この美於士の存在も杏の少女期における自我の崩壊を防ぐ働きをした。

    (美於士のその性質が先天的なマゾ気質であった事は幼い杏には知る由もなかった。)

    自分の凶悪な一面をひた隠しにし、万人に向けいい子を演じて心のなかに激しいストレスを抱え込んでいた中、自分自身の全てをさらけ出しても側から離れない美於士は杏の救いとなった。

    その時期に杏の周りに不穏な出来事は一切無い。

    しかし・・・・・


    杏が中学1年の夏休み前、ちょっとした貧血で倒れた事があった。

    大事をとって血液検査等をした折に何気無く杏が祖母に尋ねた一言が杏の人生を再び修羅の道へと導くことになった。


    「お祖母ちゃん・・・お母さんの血液型は何型だったのかな?」


    杏は自分の血液型が「B」である事をその検査で初めて知り、単にちょっとした感想を漏らしたに過ぎなかったがそれに祖母が過剰に反応してしまった。


    「・・・そんな事は杏が知る必要は無い。お母さんはもう居ないんだから。」


    思わぬ反応に初めての不審感を祖母に抱いた。

    そしてある日、祖母の留守中杏は家探しをした。

    何を探しているのか杏自身解っていなかったが、箪笥の奥から父母の死亡診断書を発見した時、それが求めていた回答である事を確信した。

    父母共に「O」型であった。

    「B」型の杏がこの夫婦から生まれることは無かった。

    杏が生まれたのは父母が結婚して3年目であったので母の不倫は決定的であった。

    また父の杏に対する愛情から父がこの事実を知っていたとは思えなかった。

    杏はその2枚の診断書を手に、父に対する贖罪の思いで体を震わせた。


    「お父さん・・・・お父さん・・・ゴメンナサイ・・・・」


    そして・・・母への憎しみが・・・呪いとなって、杏は阿修羅となり、杏の人生は修羅場になった。

    勿論、祖母はまだ幼い少女である杏にその事実がどれほど深い傷を負わせるかを心から心配して隠そうとしただけ、杏を守りたかった一心だった。

    しかし、その一件で杏の信頼を失った事に祖母は気が付かなかった。




    田宮 杏は医大入学時、自分の財産の一部で(父母、祖母の保険金や処分した資産等)大学近くにマンションを購入した。

    2年間は其処へ訪ねるものも無く孤独な暮らしをしていたが、美於士や媛が杏を慕い同じ大学に進学して来たことから以前の生活を取り戻した。

    その後4年間、医大卒業までが杏の人生で最も穏やかな時期であった。

    周りの人々とも調和し何事も無く楽しく過ごしていた。

    たまにその調和へのストレスを美於士に向けて発散することに変わりはなかったが(ドライブに誘い出し山中に置き去りにするなど他愛も無い意地悪をしたり・・・)平穏無事といった大学生活を送った。


    研修医生活に入った2013年に杏の人生は転機を迎えた。(自分の人格を自覚していたので内科を選択したのは賢明と言えた)

    杏が恋をしたのである。

    相手は大学病院の外科医で母校の講師も努めていた藤原 史(ふじわら ふひと)であった。

    自分自身、他人を愛する事があるとは思いもしなかった杏は戸惑いながらもその感情に喜びも感じていた。

    「普通の人生を送れるかも知れない。」

    自身で実家との縁を自ら切って、過去を断ち切ろうとしていた杏への神の思し召しであったのか・・・・

    杏は初めて自分から告白した。

    研修医からの突然の告白に戸惑いを見せながらも藤原は杏の愛を受け入れた。

    杏の恋は成就したのだ。

    それから1年、二人は徐々に愛を深めていった。

    講師を努め、次の准教授の椅子を伺っていた藤原が、教授の接待などに金が必要で(講師の安月給ではかなり無理をしていた事を知っていた)杏に対して時々10万、20万と金の無心をして来た事も(普通なら藤原の気持ちを疑うはずだが)逆に杏は嬉しかった。


    「杏・・・一度両親に会ってもらいたいんだけど・・・都合はどう?」


    杏が待ち望んでいた一言を史が口にしたのは二人が付き合い始めて1年目の事だった。



    藤原 史 は製薬会社の営業マンである父と専業主婦の母という家庭環境で育った。

    決して裕福な家庭環境では無い。

    その為かなり苦労を重ね医大を卒業し、必死に努力も重ね講師の座を掴んだ。

    しかし、その後の道筋は容易くは無い。

    准教授への道はいかに教授の信任を受けるかに掛かっていた。

    信任と言えば聞こえは良いが、有り体に言えば教授にいくら貢げるかに掛かっていた。

    そんな時一人の研修医が告白してきた。

    こんな時期に女など相手にしている場合では無いと思ったが、相手の事をちょっと調べると親類と呼べるものさえ居ないかなり孤独な女であるが、その為かかなりの資産があると解った。

    見た目もソコソコの美人で周りの評判もすこぶる良かった。

    史は財布代わりに丁度良い、鴨がネギ背負ってやって来たとほくそ笑んだ。

    焦らず半年ほどは普通に付き合い始め、その後自分の置かれている状況をやんわりわからせ徐々に杏から教授への上納金を引き出し始めたのだ。



    いつものように二人で愛を確認しあう。


    「・・・あん・・・あ、・・・・史さん・・・・」


    「杏・・・愛してるよ・・・・」


    愛の行為を終え抱きあいながら史はいつもの無心を始めた。


    「杏・・・今度教授に贈り物が必要なんだが・・・ちょっと金額が多いんだが・・・100万ほど用立ててもらえないか?」


    「・・・100万円?・・・・大金ね・・・・」


    おや?いつもの感じでは出てきそうに無いな、と判断した史は最終兵器を使った。


    「・・・ああ・・・そうなんだが・・・それと、杏、今度両親に会ってもらいたいんだが・・・都合はどうかな?」


    「・・・えっ?・・・あ、はい。私は史さんの都合で・・・いつでも。」


    「そう、ただ・・・教授に仲人を頼むにもやはり・・・・」


    「あ、うん・・・そうね・・・解った。それは何とかします。」





    恋は・・・・阿修羅さえ盲目にさせる病なのか・・・・・





    閑話休題
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