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    ある日の出来事

     10, 2016 07:00



    窓の外は春の訪れを感じさせる。

    寝床で思い切り背伸びをしながら、微睡みから覚醒する。

    臼井 幸の日常はこうして始まる。

    いつも通りの朝食を摂り、ながらテレビのスイッチを切り着替える。

    ドアを開けると暖かな日差しが今日の元気をくれる。

    混雑時を避ける為に通勤は他人より早めだ。

    勤務先の銀行へは就業時刻よりかなり早めに到着するので職場はいつも1番乗り。

    いつもの朝、いつもの仕事、そうやって過ごしたある日、その日もいつもの終業時間。


    「・・・間違いありません・・・・。課長、どうしますか?」


    近くの席の先輩が課長に何事か相談している様だ。


    「・・・・困った事態だ・・・。何て事を・・・。」


    課長の思わぬ厳しい視線に幸は驚きの表情を浮かべた。


    「・・・臼井君、ちょっと会議室に来なさい。」


    甲高い課長の声にフロアに居た行員たちの視線が集中する。


    課長を先頭に先程の先輩と幸、3人が会議室へと入る。

    入るなり課長が幸を問い詰め始める。


    「臼井君、何て事をしてくれたんだ!横領なんて最悪だよ、君!」


    幸は課長の叱責に驚きを隠せない。


    「そ、そんな・・・・横領なんてしてません。そんな事、私、身に覚えがありません。」


    「・・・・無駄だよ。宇曽月君が君がやった証拠を見つけたんだ。」


    「・・・・幸ちゃん・・・可哀相だけど、やっぱり横領なんてやっちゃだめよ・・・・。」


    「せ、先輩・・・私じゃありません。本当です。信じて下さい。私・・・そんな事、しません・・・。」


    幸の必死の訴えも虚しく、宇曽月が見つけた証拠は動かぬ証拠。

    そのまま処分が決まるまで課長から自宅待機を命じられる。


    失意の元呆然としながら駅への道を歩いていると、人相の悪い大男に正面からぶつかられた。


    「こりゃ!おんどりゃ、ちゃんと前向いて歩けや!!」

    驚いて竦み上がった幸は正当な反論も出来ず。


    「・・・す、すいません。」


    「ふん!今度から気を付けろや!」


    意外とあっさり許してくれたのが不思議であったが、その場を急いで離れる事が精一杯な幸。

    しかし駅前に着いたときにバッグの口が開いている事に気が付く。

    支払い用に口座から下したばかりの現金(銀行の封書入り)50万円が無い。

    弱り目に祟り目。

    幸はもうどうにかなりそうである。

    そのまま近くの居酒屋へ直行。

    嫌な事ばかりのこの日を飲み干す勢いで、自分の限界以上の酒を浴びるように飲む。

    そのうち隣の席に居たサラリーマン風の二人連れが絡んで来た。


    「ねぇ~、一人で飲んでるの?一緒に飲まない?」


    「いえ・・・結構です。構わないで下さい。」


    「・・・チェッ、いけ好かない姉ちゃんだな!ブス!」


    最悪の日の最悪の気分が幸に勇気を与えた。


    「何よ!醜男(ぶおとこ)のくせに!余計なお世話よ!」


    しかし、今日は最悪の日なのだ。


    「な、何を~!このブス!!死ねや~!!」


    2人連れの1人が幸を床に引き倒し、頭を殴りつけ首を締めた。

    幸は苦しさの余り近くに転がっていたビール瓶を掴み相手の頭に叩き付けた。


    「ぐわぁ~~・・・」


    男は出血しながら床を転がり回る。


    「きゃ~!!!」


    店内に女性客の悲鳴が響き渡った。


    余りの出来事に幸は我を忘れ一目散に店を飛び出した。

    通りに出てすぐさまタクシーに飛び乗り自宅へと逃げ帰った。



    「ただいま・・・・」


    一人暮らしなので勿論返事は無い。

    部屋に入った幸は余りの有様に呆然とした。

    部屋中ひっくり返した様な散らかり具合である。

    空き巣に入られた?・・・・

    もう何も考えれらない幸が立ち竦んでいるとチャイムが鳴った。


    「はい・・・どちらさまですか?・・・・」


    「夜分すいません、宅急便です。」


    「あ、はい・・・」


    ドアを開けると配達員の制服を着た男にいきなりナイフを突き付けられ口を塞がれる。


    「・・・おとなしくしろ。声を出すなよ!」


    怯えきって声など出ない、ただ黙って頷いた。

    そのままの態勢で部屋の中に入ってソファーに押し倒され・・・・

    事が終わるまで幸の首にはナイフが突きつけられたままで抵抗さえ出来ず、男が部屋を出て行った後も恐怖で泣くことさえ出来ずにただ呆然と倒れたまま。

    数時間そのままの態勢でいた幸を揺り動かしたのは宇曽月。


    「幸さん・・・どうしたの?何があったの?」


    その言葉に幸が堰を切ったように泣き声を上げた。


    「先輩・・・先輩・・・」


    幸は自分を陥れたのが宇曽月である事をすっかり忘れて縋り付いて泣いた。


    「幸さん・・・可哀相に・・・・でも・・・いっそ死んでね・・・。」


    「えっ?・・・」


    驚いて宇曽月の顔を見上げた幸の首にロープが巻かれそのまま絞められる。


    「うっ・・・くる・・・せ、先輩・・・どうして・・・・」


    「ごめんね・・・お金、私なの・・・だから・・・ごめんね・・・」






    毎朝新聞 社会面

    ○○銀行から横領で告発されていた「臼井 幸」容疑者が自殺、遺体で発見された。

    臼井容疑者は勤務先の○○銀行で横領が発覚し、自宅謹慎を命じられた後勤務先近くの居酒屋で泥酔し隣席の会社員へ暴行、軽傷を負わせた後逃走。

    帰宅後も自宅で暴れて近隣住民から騒音被害で警察へ通報され、警官が容疑者宅へ駆け付けた時には既に浴槽のドアで首を吊って自殺を図っていた。

    救急搬送先の病院で死亡が確認され、警察は横領、暴行傷害の容疑で被疑者死亡のまま書類送検した。



    これが臼井 幸の身に起きた、ある日の出来事のすべてである。



    閑話休題

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