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    時の片~かけら  2

     16, 2012 07:00
    1990年11月


    その日、突然の轟音と共に雲仙岳が噴煙をあげた。

    永き眠りから目を覚ましのだ。


    1792年「島原の大変肥後の迷惑」と歴史に残る大噴火以来198年ぶりの噴火だった。



    当然の事ながら、地元住民は驚き混乱した。

    誰もがあり得ない事と信じ切っていたのだから。


    九州には、幾つかの火山があり、そのほとんどが休火山で、活火山は鹿児島県の桜島が唯一と言える。

    雲仙岳も熊本県阿蘇山と同じくほとんど死に掛けた休火山と思われていた。

    その雲仙岳の噴火である。

    人々の驚きは想像に難くない。



    しかし、この噴火は、更なる災いの序章に過ぎなかった。





    その日は、紫水館にとって日常の一日として始まった。


    「どうも有難うございました!」


    女将の元気な声が玄関ホールにこだまする。


    「有難うございました。楽しかったです。また来ますね。」


    客の言葉に、従業員、中居、共に笑顔になる。

    その瞬間、轟音と共に地面が揺れ動いた。


    「キャー…」


    「何?地震?…何?」


    「落ち着いて!」


    悲鳴と怒号。混乱。

    しかし、その轟音は暫くするとすぐに収まった。


    「落ち着いて下さい。大丈夫です!」


    女将の言葉に、客も不安げではあるものの一時の混乱から立ち直った。

    玄関ホールを出ると、眼前に見える雲仙岳の山頂付近から白煙が立ちのぼっていた。

    外に出た者は、客だけでなく従業員も皆一様に驚きの声をあげた。


    「すげー!」


    「なに-!?」


    女将である潤子は、必死に動揺を隠し努めて平静に言う。


    「お客様。雲仙岳が噴火した様です。お車をご用意いたしますので、暫くお待ち下さい。」


    「女将さん、大丈夫なんですか?」


    客の一人が不安げに尋ねた。


    「今すぐ大噴火というわけではなさそうですので、どうぞロビーの中で暫くの間お待ち下さい。」


    内心、潤子自身が誰かに聞きたかった。



    【本当に大丈夫なの?】と。



    「ただいま!」


    何とか無事客を送り出した頃、息子の幸治が学校から戻ってきた。

    緊急に集団下校となったようだ。

    後を追う様に、夫の新司も帰宅した。

    その日新司は、地元旅館組合の会合で麓の島原市まで出掛けていた。


    「ただいま。大丈夫だったか?」


    「あなた…」


    潤子は、一気に緊張の糸が切れるのを感じた。

    そのまま、夫にもたれかかった。


    「おい、大丈夫か!?」


    「大丈夫。少しだけこのままで居させて」


    「ああ」


    新司は、そっと潤子を抱き寄せた。


    「お母さん、大丈夫?」


    まだまだ、幼いと思っていた幸治が母を心配して声を掛ける。


    「あら、心配かけてごめんなさい。大丈夫よ。」


    潤子は、息子を抱きしめた。

    自身も心細かったに違いないのに、母を気遣う息子の優しさを頼もしく思った。



    続く



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    こちらより




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